Safety & Quality
品質と安全性のお約束
品質規格 E.O.B.B.D.® とは?

E.O.B.B.D.®とはEssential Oils Botanically and Biochemically Definedの略で、植物学的・天然物化学的に同定されたエッセンシャルオイルという意味です。アロマテラピーに使用するエッセンシャルオイルは、原料植物の学名や産地、蒸留部位といった植物学の正確な情報と、GC/MS(ガスクロマトグラフと質量分析計の結合)分析によって同定された成分組成と、各々の成分の含有率といった天然物化学の詳細な情報によって中身が特定されたものでなければなりません。なぜなら、安全で効果的なアロマテラピーを行うには、こうした情報をもとに的確に、ケアの目的と方法に適ったエッセンシャルオイルを選ぶことが、最も大切な要素となるからです。
フィリップ・メユビオは1980年代初頭に、H.E.B.B.D.というアロマテラピー用のエッセンシャルオイルの品質基準を設けました。エッセンシャルオイルがケアの目的に従って、皮膚塗布のみならず飲用や経直腸投与(座薬)等、医薬品同様の使い方がなされるアロマテラピーでは、その人体に与える影響と薬理学的な特性を考慮に入れた品質基準の設定が急務であったからです。香料としてのエッセンシャルオイルの品質基準しか存在せず、そもそも天然のエッセンシャルオイルに品質の違いがあるという認識すらなかった当時としては、メユビオの試みは画期的なことでした。
2000年にフィリップ・メユビオは、それまでの研究成果を踏まえ、H.E.B.B.D.の基準をさらに厳格化しE.O.B.B.D.®と改めました。そして、この新規格E.O.B.B.D.®を満たすために実施される分析システムと品質管理の方法によって、同年、国際規格ISO9002を取得しました。
E.O.B.B.D.®により品質を保証されたエッセンシャルオイルのボトルおよび外箱には、メディカル・ユーズに必要不可欠な6つの表示項目が記載され、内容物を正確に同定することが義務付けられています。
心身のケアを目的としたアロマテラピーを行う場合、エッセンシャルオイルのビンまたは外箱に、フラスコと葉っぱのマークが目印のE.O.B.B.D.®のロゴと、6つの表示項目が表記されているかどうかをお確かめください。E.O.B.B.D.®という名称とそのロゴデザインは、国際商標登録されています。
安全で効果的なアロマテラピーに必要不可欠なE.O.B.B.D.®の6つの表示項目
- 国際植物命名規約に則った二命名法による植物学名の表示
- 原料植物の産地の表示
- 原料植物の生育条件の表示
- 原料植物の生育段階(SD)と蒸留される部位(DO)の表示
- エッセンシャルオイルの作用特性を形成する主な特性成分(BS)とその含有率の表示
- ロット番号表記によるトレーサビリティ
1. 国際植物命名規約に則った二命名法による植物学名の表示
何のエッセンシャルオイルがボトリングされているのかを正確に知るためには、国際植物命名規約に則った二命名法(属名と種小名の列記)によるラテン語表記の学名が記載されていなければなりません。
例) Eucalyptus radiata / Eucalyptus : 属名 radiata : 種小名
同じ属の植物でも、種、変種、亜種の違いによって、成分が異なります。例えば、通常「ユーカリ」と呼ばれている植物は、実際には600以上もの種の違いがあり、そのうちアロマテラピーのエッセンシャルオイルとして用いられるのはごく限られた種です。ユーカリ・シトリオドラ Corymbia citriodora、ユーカリ・グローブルス Eucalyptus globulus、ユーカリ・ラジアタ Eucalyptus radiataといった代表的な3種のユーカリを例に挙げてみても、それぞれ香りも成分構成も異なり、したがって作用特性も違います。
| ユーカリ・シトリオドラ Corymbia citriodora | 特性成分:シトロネラール、イソプレゴール、シトロネロール 香りの特徴:レモン様のハーブの香り |
|---|---|
| ユーカリ・グローブルス Eucalyptus globulus | 特性成分:1,8-シネオール、α-ピネン、グロブロール 香りの特徴:ユーカリらしい香り |
| ユーカリ・ラジアタ Eucalyptus radiata | 特性成分:1,8-シネオール、リモネン、α-テルピネオール 香りの特徴:ユーカリらしい爽やかでやさしい香り |
「ユーカリ」あるいは「ユーカリ属」「Eucalyptus」とだけラベルに表示され、それ以上の詳しい情報を提示していないエッセンシャルオイルは、どんな性質のユーカリかわかりません。
2. 原料植物の産地の表示
植物学的に見て同じ植物でも、つまり学名が同じであっても、産地によって成分が異なる場合があります。例えばローズマリー Rosmarinus officinalisの場合、フランスのプロヴァンス地方、コルシカ、そして北アフリカが主な産地ですが、成分構成は産地によって異なり、したがって香りや作用特性に違いがあります。
| ローズマリー・カンファー Rosmarinus officinalis BS camphor | 特性成分:カンファーなど 産地:プロヴァンス地方など 香りの特徴:カンファー(樟脳)の香りが強い |
|---|---|
| ローズマリー・ベルベノン Rosmarinus officinalis BS bornyl acetate, verbenone | 特性成分:ボルニル・アセテート、ベルベノンなど 産地:コルシカなど 香りの特徴:ローズマリー・カンファーより柔らか味のある松脂を思わせる香り |
| ローズマリー・シネオール Rosmarinus officinalis BS 1,8-cineole | 特性成分:1,8-シネオールなど 産地:北アフリカなど 香りの特徴:染みとおるようなさわやかな香り |
カンファーを多く含むプロヴァンス地方産のローズマリー・カンファー Rosmarinus officinalis BS camphorはカンファー(樟脳)の香りが強いので、芳香浴などにも適していません。
3. 原料植物の生育条件の表示
抽出に用いられた植物の生育条件を表示しています。
- 野生 Wild:まったく人の手がかかっていない自生している植物。
- オーガニック栽培 Organic cultivation:有機栽培(化学肥料や化学合成農薬を使用しない)されたもの。オーガニック認証団体の認証を取得している。
- 栽培 Cultivation:通常の栽培。ただし、有機栽培をしているが、経済的負担の重さ等の理由から公的な認証を取得していないものも含む。
4. 採取時の植物の生育段階(SD)と蒸留部位(DO)の表示
例えば蒸留される植物が全草の場合、開花時か、それとも種子が付いている時期かなど、採取時の生育段階によってエッセンシャルオイルの成分は異なります。ディル Anethum graveolens の場合、抽出部位が「種子付き全草」であればカルボンの含有率が高くなり、肝臓に対する毒性を有しますが、「花と実を付けた時期の全草」は、フェランドレンやリモネンが豊富に含まれるため、肝臓に悪いどころか逆に肝臓の働きを良くする作用があります。
また、同じ植物でも、葉、花、果皮など、蒸留あるいは圧搾される部位によってもエッセンシャルオイルの成分は異なります。例えば、オレンジの木Citrus aurantium L. var. amaraの場合、「葉」「花」「果皮」からそれぞれ成分の異なったエッセンシャルオイルが抽出されます。
| ビターオレンジ・リーブス (プチグレン) Citrus aurantium L. var. amara SD/DO leaves | 蒸留・圧搾部位(抽出方法):葉(水蒸気蒸留法) 特性成分:リナリル・アセテート、リナロール、ゲラニオール、ネロール 香りの特徴:みかん畑を思わせる香り |
|---|---|
| ネロリ Citrus aurantium L. var. amara SD/DO flowers | 蒸留・圧搾部位(抽出方法):花(水蒸気蒸留法) 特性成分:リナロール、リモネン、α-テルピネオール 香りの特徴:上品でやさしい花の香り |
| ビターオレンジ Citrus aurantium L. var. amara SD/EXO:peel | 蒸留・圧搾部位(抽出方法):果皮(圧搾法) 特性成分:リモネン、β-ミルセン 香りの特徴:柑橘の果皮の香り |
生育段階はSD(Stage of Development)、水蒸気蒸留された部位はDO (Distilled Organ)、柑橘類の果皮など圧搾された部位はEXO( Expressed Organ)と表示されます。
5. エッセンシャルオイルの特性を形成する主な天然特性成分(BS)とその含有率の表示
1,8-シネオール45%、α-ピネン24%など、エッセンシャルオイルの特性を形成している主な特性成分(生理活性物質)とその含有率を表示しています。
工業製品ではない天然の産物であるエッセンシャルオイルは、同じ種類の植物であっても産地や採取時期だけでなく、ロットが変わっただけでも、成分や成分組成が大きく異なる場合があります。
使用の際には、一つ一つのエッセンシャルオイルの特性を正確に把握することが大切で、ロット毎の特性を示す特性成分とその含有率の表示は、極めて重要な情報源です。
ところで、エッセンシャルオイルの特性を形成している成分は、必ずしも含有率の高い成分とは限りません。
例えば、クラリセージ Salvia sclareaの成分の一つであるスクラレオールは2%にも満たない含有率ですが、女性のためのエッセンシャルオイルとして知られているクラリセージの特性成分として重要です。したがって少量であっても特性成分BS (Biochemical Specificity)として表示されます。
6. ロット番号表記によるトレーサビリティ
エッセンシャルオイルのトレーサビリティとは、蒸留から各種品質検査、ボトリング、ラベリング、出荷、そして最終の消費段階まで、すべての流通履歴がロット番号によって追跡可能であることを意味します。天然物であるエッセンシャルオイルは、原料が同じ種類の植物であっても蒸留ごとに微妙に成分組成が変わります。よって、蒸留ごとに製造番号つまりロット番号を割り振り、トレーサビリティを明確にする必要があります。
官能試験について
エッセンシャルオイルの香りは、エッセンシャルオイルの品質によって決まります。
鼻の嗅覚受容体が芳香分子によって刺激を受けると、神経末端が神経伝達信号を出し、これが嗅覚神経に伝わって脳に届き、香りは知覚されます。そして、この香りの知覚が、思考や感情、気分といった私たちの精神活動に影響を与えることが、さまざまな実験を通して明らかになっています。
香りが私たちの精神感覚面に及ぼすインパクトの強さから言っても、その香りの質がエッセンシャルオイルの品質を評価するための重要な基準とならなければなりません。
原料植物の選択、蒸留の技術、保管の方法といった、製造工程全てのファクターの質がエッセンシャルオイルの香りに反映されます。
『オーガニック栽培のエッセンシャルオイル=残留農薬ゼロ』という公式が成り立たないのと同様に、『オーガニック栽培のエッセンシャルオイル=アロマテラピー用の高品質エッセンシャルオイル』という公式も成り立ちません。なぜなら、オーガニックとはあくまでエッセンシャルオイルの原料である植物の栽培方法であり、エッセンシャルオイルそれ自体の品質を左右する決定的なファクターではないからです。エッセンシャルオイルの製造工程において、最も重要な過程は蒸留であり、蒸留方法とその技術によって品質の良し悪しが決定します。
物性試験と化学分析(GC/MS)の結果、数値的にまったく問題のないエッセンシャルオイルであっても、官能試験で香りが良くないと判断されたものはアロマテラピー用のエッセンシャルオイルとしては失格で、したがってE.O.B.B.D.®認証のエッセンシャルオイルとはなりません。